指物師 川本光春

指物についてAbout Sashimono

日本の木材文化と共に歩んできた桑

材木にはさまざまな種類があるが、美術・工芸品において多く用いられてきた銘木が日本の木材文化と共に歩んできた桑(山桑・本桑)。
本桑という言い方はあまりにも質が良く高価なため代用品として黄蘗(キハダ)材に桑色を塗って桑に似せて出している女桑(メグワ)などという言葉があるが、それらに似せている材木が安価でまわる事からそれに対して本桑という言葉が出て来たと思われる。

本桑

クレーンで持ち上げる桑樹齢推定250年以上

銘木の中でも特別な桑、あと銘木の中には黒柿、神代杉、神代欅、屋久杉や霧島杉など産地の名が付いてブランド化しているような希少な材木を使い、木と木を接合する(釘なし)ことによって強度を保ちながらの仕事を指物(一部)という。
木と木を接合しそれをさまざまな意匠と工夫をほどこし日常道具から指物工芸へと進んでいく。

山桑

希少な材木を釘を使わず接合する

技術的な基本は刃物を研ぐ事でノミやカンナを使えるようにする事からはじめるが、この「研ぐ」技術を習得するには最低でも5年以上かかると言われ若者の志させない一つの壁になっている。
刃物が研げるようになると材木と材木を接合(仕口)しながら指物師ごとに入っていく。人間にも十人十色と個性があるように材木にも色、香、かたさ、また産地によってのくせなどがあり用途や美に対応しながら訓練を繰り返し材木のもつ個性を目利き技術で極めていくのである。

川本家の究極の技術である曲げ物

基礎から学び約10年位たつと一通りの指物技術が習得される。 ここから川本家の究極の技術である曲げ物の仕事に入る。 曲げるといっても他の伝統工芸のように杉材をワッパ状に曲げるのではなく、指物の中でももっとも扱いにくい桑の木を曲げるのである。 桑材は非常にくせがあり動く代名詞に上がるぐらいやっかいな材木であるが、それをこなせれば桑師と呼ばれ指物師の上の位置づけとなる。

桑師

すべての桑材が曲がるわけではない

この桑を曲げるのであるが、すべての桑材が曲がるわけではなく、よく曲がってくれる場所(木取)がある。この事がわかると厚さ6m前後の桑材を曲げる事が出来る、これも大きな技術のうちの1つである。
曲げ方は割と単純で沸騰した湯に曲げる場所を湯につけながら強弱をつけて曲げていくのである。曲げた部分を一旦型に納めてから更に削ったり磨いたりして木に曲がったことを覚えさせて定着させて作品に仕上げて行く。

桑材は古くから日本で愛されてきた銘木

桑材は時がたつにつれて木目が際立つ特徴があり古くから日本文化に溶け込み愛されてきた銘木の代表のようなものである。桑の特徴をもうすこしさわると切り口は濃い黄色(信号機に近い)の肌をしているが空気に触れて何年もたつと焦げ茶、茶色へと変色していく、これを古来から桑色と呼んで上品さを強調してきたのである。

細かい細工の指物でも畑桑は細工物として適さない

一つの技術として石灰の粉を水でペースト状にしたものを肌に塗って乾いた所で石灰をとってやるとそれに反応して表面が桑色に変わるのである。
石灰に反応する材木は他にも、栗、桜などがあるがあきらかに桑材がもっとも繊細に反応するのである。

この桑材は蚕の畑桑とほぼ同じだと言われているが畑桑は養蚕のために必要としてきたので材木自体はそれ程大きくない、細かい細工といわれる指物でも畑桑は細工物としては適さない。 山奥深くに自生している樹齢250年以上と言われるような山桑があり、それはそれは立派なものである。

銘木